2017年2月27日月曜日

小津安二郎「風の中の牝鷄」

四方田犬彦が『月島物語』の中で紹介している小津安二郎監督の松竹映画。
千葉泰樹の「下町(ダウンタウン)」同様、夫の復員を待つ妻がひと夜限りの過ちをおかす。
女性がひとりで(あるいは子ども連れて)生きていくことが過酷な時代だった。
夫佐野周二が月島を訪ねる。隅田川沿いにたたずむその背後に勝鬨橋が見える。
四方田によれば、この作品と翌年の「晩春」以降、下町はわずかな例外をのぞいて小津作品から姿を消し、舞台は東京近郊の山の手や湘南に移っていく。
小津の生まれは深川だった。

2017年2月21日火曜日

実相寺昭雄「帝都物語」

原作は荒俣宏。脚本が林海象。
「怪奇大作戦」や「シルバー仮面」の世界に実相寺昭雄の映像詩的な世界がまぜ合わさったような作品。
昭和の森に銀座通りを再現したオープンセットをつくって話題になった。市電も走らせた。鉄道少年実相寺には欠かせない巨大小道具だったにちがいない。
1980年代後半はフィルムからビデオへの移行期。いたずら好きの実相寺昭雄が果敢に挑んだハイビジョンVFX映画だ。

2017年2月17日金曜日

黒澤明「まあだだよ」

黒澤明30作目の作品。
原作は内田百閒。
戦中戦後の目まぐるしい時代をのどかな師弟愛でつつみこんでいる。
松村達雄はいつもいいお父さんだったり、目立たないけどいい芝居をする脇役だったりする。今回は先生役でしかも主役。ちょっと頼りなさそうな主役だけれど内田百閒がモデルならそれも納得できる。
奥さんは香川京子、教え子の代表格は井川比佐志。ユーモアに富んだ先生のキャラクターを所ジョージや寺尾聰、平田満、岡本信人らがしっかり支えている。
先生とともに黒澤明の人生もその数年後、静かに幕を閉じることになる。
これが最後の作品であると思うとちょっとうらやましい映画人生だったのではないかと思えてくる。